ロイ・アンダーソン最新作『ホモ・サピエンスの涙』が公開、北欧の巨匠が魅せる映像美と哲学的ストーリー

スウェーデンを代表する映画監督の一人、ロイ・アンダーソン(Roy Andersson)の最新作『ホモ・サピエンスの涙』が11月20日より、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル梅田ほか全国で順次公開される。

前作『さよなら、人類』(2014年)で、第71回ヴェネチア国際映画祭のグランプリにあたる金獅子賞に輝いたロイ・アンダーソン。5年振りとなる本作では、同76回映画祭(2019年)にて最優秀監督賞を受賞する快挙を果たしている。

映画『ホモ・サピエンスの涙』

マルク・シャガールの名画「街の上で」に着想を得たシーン/Photo:©Studio24

“映像の魔術師”と呼ばれるスウェーデンの巨匠が本作で描くのは、時代も性別も年齢も異なる人々が織りなす悲喜劇。構図、色彩、美術の細部まで徹底的にこだわり、全33シーンすべてをワンシーンワンカットで撮影したという。

それぞれの登場人物が綴るエピソードにほとんど関連性はなく、まるで短編集かのごとく進行していくが、世界的画家のマルク・シャガールの「街の上で」(1918年)、イリヤ・レーピンの「イワン雷帝とその息子」(1885年)、ソビエト連邦の風刺漫画家グループ・ククルイニクスイの「The end」(1946年)といった、実在の名画の数々からインスパイアされた美術品のような映像美にのせて、「千夜一夜物語」の語り手を彷彿とさせるナレーションが、物語に不思議な一体感を与えている。

映画『ホモ・サピエンスの涙』

Photo:©Studio24

そのメタフィジカルなストーリーはもちろん、ビリー・ホリデイ、ザ・デルタ・リズム・ボーイズなど、時代を超えて愛される歌声が映像に彩りを与え、よりロマンティックな雰囲気を纏わせている点も興味深い。

CG全盛の時代にCGをほぼ使わず、巨大なスタジオにセットを組み、模型や手描きのマットペイント(背景画)を多用するというアナログにこだわった手法で、数々の傑作を生み出してきたロイ・アンダーソン。その芸術的映像美と、独特のユーモアが散りばめられた哲学的な世界観が各方面で絶賛され、映画『ミッドサマー』のアリ・アスター、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のアレハンドロ・G・イニャリトゥ、『ブラック・スワン』のダーレン・アロノフスキーなど、名だたる映画監督たちも“敬愛する監督”にアンダーソンの名を挙げるほどだ。

映画『ホモ・サピエンスの涙』

Photo:©Studio24

【STORY】
この世に絶望し、信じるものを失った牧師。戦禍に見舞われた街を上空から眺めるカップル。悲しみは永遠のように感じられるが、長くは続かない。これから愛に出合う青年。陽気な音楽にあわせて踊るティーンエイジャー。幸せはほんの一瞬でも、永遠に心に残り続ける―。人類には愛がある、希望がある。だから、悲劇に負けずに生きていける。悲しみと喜びを繰り返してきた不器用で愛おしい人類の姿を、万華鏡のように映し出していく――。

人間という存在の摩訶不思議、人生の喜びや悲哀を、愛のある優しい視点で描き続けてきたロイ・アンダーソン渾身の傑作『ホモ・サピエンスの涙』。各映画館の新型コロナウイルス感染予防のガイドラインをご確認の上、ぜひご鑑賞を!

【Information】
『ホモ・サピエンスの涙』(英題:ABOUT ENDLESSNESS/原題:OM DET OÄNDLIGA)
監督・脚本:ロイ・アンダーソン(『愛おしき隣人』『さよなら、人類』など)
出演:マッティン・サーネル、タティアーナ・デローナイ、アンデシュ・ヘルストルム
撮影:ゲルゲイ・パロス
2019年/スウェーデン=ドイツ=ノルウェー/カラー/76分/ビスタ/
後援:スウェーデン大使館
提供:ビターズ・エンド、スタイルジャム
配給:ビターズ・エンド
http://www.bitters.co.jp/homosapi/

THE STYLE OF NORTH 編集部

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