映画『ミッドサマー』の舞台、スウェーデンの夏至祭はそんなに怖いのか!?

現在公開中の映画『ミッドサマー』(原題:Midsommar)が話題になっている。

前作『へレディタリー/継承』(2018年)で長編映画デビューし、高い評価を得たアリ・アスター(Ari Aster)が監督と脚本を務めた同作は、スウェーデンの秘境の村で行われる宗教儀式をオカルトチックに描いた衝撃のフェスティバル・スリラーだ。

映画『ミッドサマー』

Photo:MIDSOMMAR OFFICIAL

【STORY】
予期せぬ出来事で家族全員を失いトラウマを抱えるダニー(フローレンス・ピュー/Florence Pugh)は、大学で民俗学を専攻する恋人のクリスチャン(ジャック・レイナー/Jack Reynor)や友人らとともにスウェーデン奥地の村で90年に一度開催される祝祭を訪れる。親切な村民たちに歓迎される一行だが、奇妙な歌や踊り、得体の知れない食べ物、未知の風習などを体験するにつれ、ただならぬ不穏な空気を感じ始める。彼らが招かれたのは、日の沈まない白夜に照らされた狂気の祭だった…!

>> 実際のスウェーデンの夏至祭の様子はページ後半へ

映画『ミッドサマー』

Photo:MIDSOMMAR OFFICIAL

タイトルが表す通り、同作はスウェーデンの夏至祭(スウェーデン語でミッドソンマル)にインスピレーションを得ており、物語の随所にスウェーデンの夏至祭を想起させる描写やスウェーデン語の台詞が登場する。秘境の村民を演じているのもスウェーデン出身の俳優たちだ。物語の伏線でもある絵画や古代文字、細部まで作り込まれた装飾やインテリアも、どこか北欧神話を感じさせるものであり、映画に登場する奇怪なカルト集団がスウェーデンの山奥に実在しているかのようなリアリティーを帯びている。

映画『ミッドサマー』

Photo:MIDSOMMAR OFFICIAL

アリ・アスター監督は来日時のインタビューで「実際にスウェーデンを訪れてリサーチをしました。スウェーデンの伝統や民間伝承をまとめると膨大な量になり、リサーチの結果を一旦“無”にする作業も必要でしたね。一部、ドイツやイギリスの夏至祭も参考にしていますが、タブーは一切考慮せずに、今作のストーリーに合う要素を取り入れるようにしました」と話している。(本来の夏至祭には映画のようなオカルト要素はまったくないので誤解のないよう!)

グロテスクな描写や淡々と進むストーリーなど、映画の評価は鑑賞者によって分かれるところではあるが、第92回アカデミー賞で助演女優賞にノミネートされた主演のフローレンス・ピューの演技は今作でも素晴らしく、白夜の明るさを恐怖へと導く巧みなカメラワーク、衣装や絵画、細部にまでこだわった芸術的なアートワークなど、見る価値ありの一作であることは間違いない。

アリ・アスター監督によると、「この映画は、決して怖がらせようと思って作った作品ではないんです。ファンタジー溢れる恋愛ドラマ、人間ドラマ、または失恋ムービーだと思っています。ラストはカタルシスを感じるような、何かが浄化されるような気分になれると思うので、ぜひ見ていただきたいです」とのこと。

夏至祭

スウェーデンの夏至祭の様子/Photo:Conny Fridh(imagebank.sweden.se)

さて、スウェーデンの夏至祭(ミッドサマー)と言えば、クリスマスと並ぶもっとも重要な年次行事の一つで、毎年国民総出でお祝いをする。民族衣装やミッドソンマルクランス (Midsommarkrans)と呼ばれる花かんむりを纏い、白樺の葉と野の花で飾られたメイポールの周りでスモーグロードルナ(Små grodorna)という“カエルのダンス”を大勢で踊るのが恒例。老若男女が歌を口ずさみながらピョンピョンと踊る姿は、ちょっぴりシュールで愛らしい。

スモーグロードルナ

スモーグロードルナを踊る子供たち/Photo:mi6community

スウェーデン伝統の民族衣装は地域によりさまざまなカラーとデザインがあり、一説には数百種類あるといわれている。王室メンバーも着用するもっともオーソドックスなデザインは、フリル付きの白いブラウスに青色のワンピース、花の刺繍が入った黄色のエプロンを重ねるこちら(写真上)の衣装。スウェーデン国旗を想起させるビビットなカラーのドレスは、大人が着ても子供が着ても華やかで、ロマンティックな雰囲気がある。

北半球の高緯度に位置し、秋から冬にかけて急激に日照時間が少なくなる北欧では、夏の日差しは非常に貴重で重要なもの。スウェーデンの夏至祭は、日照時間がもっとも長い6月下旬の週末に行われるため、人々は屋外にテーブルを並べ、友人や家族とともに夜遅くまで食事とお酒を楽しむ。

用意されるのは、さまざまな料理を一つのテーブルに並べ、ビュッフェ形式で楽しむスウェーデン発祥のスモーガスボード(いわゆるバイキング)。スモルゴストータ、ニシンの酢漬け、スモークサーモンや茹でたジャガイモにディルをのせたものなどが定番だ。

Midsummer Food

夏至祭にはスウェーデンの伝統料理が並ぶ/Photo:familyreviewguide.com

いつもはシャイなスウェーデン人もこの日ばかりはかなり開放的。(翌日はほとんどの人が二日酔いになる)日本人にとっては、どことなく「お花見」に近い雰囲気を感じるだろう。

Midsommarkrans

ミッドソンマルクランスは野の花で手作り/Photo:visitsweden.com

ちなみに、スウェーデンの夏至祭には観光客も参加することができる。ストックホルムの野外博物館「スカンセン(Skansen)」やイェーテボリの「グンネボー城(Gunneboslott)」で毎年イベントが開催される他、木彫りの馬ダーラナホースで有名なダーラナ(Dalarna)地方には、地元に受け継がれる伝統的な夏至祭の催しを一目見ようと、世界中から多くの観光客が訪れる。

Midsommar in Dalarna

ダーラナ地方の夏至祭/Photo:theculturetrip.com(Alamy Stock Photo)

下記、スウェーデン観光局のウェブサイト(英語)にて実際の夏至祭の様子(ムービー)が紹介されているので、気になる人はチェックしてほしい。
https://visitsweden.com/midsummer/

スウェーデン本来の夏至祭を知ってから『ミッドサマー』を鑑賞すれば、映画もより一層楽しめるはずだ。


【Information】
映画『ミッドサマー』
脚本・監督:アリ・アスター
音楽:ボビー・クルリック
出演:フローレンス・ピュー、ジャック・レイナー他
配給:ファントム・フィルム
2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.
https://www.phantom-film.com/midsommar/

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